
まだFAXなんですか?
「まだFAXなんですか?」
敢えて上から目線を強調すると私たちの会社の営業はこんな言葉を使っているかもしれません。
そういう脅しにも近い言葉を展示会などで投げかけ、相手をドキッとさせ、DX進めなやきゃと不安に落とし入れ、その後そっと耳元で「Bカート使えばそんな心配ありませんよ。わずか月額9800円から受発注デジタル化できるんですよと」パンフレット見せながら相手の心理に巧妙につけいる。
もちろん私たちの営業の人間はもっともっとソフィストケートされているので、そんな言葉は使うわけもないのですが、上のシチュエーションはあくまで自虐を交えたネタと承知の上で申し上げているのですが世間一般にもそう思われているのは事実でしょう。
特にコロナの時期にはかなり盛んに使われたことば。
まだFAXなんですか?
コロナの終わった今でもこれはまだ通用するフレーズだと思います。
人々の頭の中には、FAXは古い
FAXはもうなくなると思われ続け言われ続けているように思います。
DXを推し進める私たちの事業にとっては言ってみれば目の上のたんこぶ的存在でもあるのがこのファクスというマシンと言っていいでしょう。
実際技術として見れば、FAXはかなり昔の機械です。
発明自体は100年以上前のものなのにインターネットがここまで普及した今でも現役として使われています。スマートフォンやクラウドの時代から見るとどうしても昭和の機械に見えてしまいます。
ただ、現場を見ているとどうもそんな単純な話でもないんですね。
メーカーでも卸でも小売でも
BtoBの受発注の世界では、FAXは今でも普通に使われています。
注文書をFAXで送る。
この光景は、まだかなりの場所で見ることができます。
じゃー、そもそも
FAXって何なんだろう。
FAXは電話より古いんですよって偉そうに言ってみる。
ここで少し歴史の話をします。実は(というほど知っているわけではない)FAXという技術かなり古いんですね。
ウィキによると原型は1840年代までさかのぼるようです。
私の好きなヒーローたちが活躍する明治維新1868年までまだ28年四半世紀を残す年代です。
1843年、スコットランドの発明家アレクサンダー・ベインが、画像を電線で送る装置の特許を取得しています。
つまりFAXのアイデアは、19世紀のはじめにはすでに存在していたということになります。
ここで面白いのは、これが電話より前だということです。
電話が発明されたのはこれまたウィキによると1876年。
ベルが電話の特許を取得した年です。
電話という技術はベル一人の発明というより、当時の発明競争の中で生まれたものでした。そしてその普及に大きく貢献した人物がいます。
発明王エジソンです。
エジソンは電話そのものを発明したわけではありませんが、送話器などの改良を行い、電話を実用的な通信機器へと発展させました。
つまり電話という技術はベルが発明し
エジソンが改良し世界に広がっていったとも言われています。
このベルとエジソンの発明争いは割とドラマチックで世に知られていることなんで電話の発明って実際誰よってよく話題になります。それに対してファクスはどうもそんなドラもないし登場人物も地味なので人々の話題に上ることも少なく一ファクスファンとしては悲しかったりします。
とにかく、人類は、私たちは、声を送るより先に画像を送ろうとしていたんですね。
ちなみに1843年というと、日本はまだ江戸時代末です。
将軍は徳川家慶。
天保の改革が終わった頃です。
ペリーが浦賀に来航するのは、まだ10年以上先の話です。日本がまだ鎖国の中にあった頃、ヨーロッパでは紙を電線で送るという発想がすでに生まれていました。
こうして考えると、FAXという技術は私たちが思っているよりずっと長い歴史を持っています。
FAXは日本の発明ではないでも私たち日本が育てた。
FAXのアイデアそのものはヨーロッパで生まれました。しかしそれを社会の中で広く普及させたのは、日本企業だったと言われています。
先のウィキの解説にもあるように1980年代、日本の電機メーカーがFAXを小型化し、価格を下げました。
この小型化、プライスダウンは日本のお家芸でしたよね。
それまでFAXという機械は、新聞社や通信社などが使う特殊な通信装置のような存在でした。それを「普通の会社が使う機械」に変えてしまったのが、日本の電機メーカーでした。
松下電器
シャープ
キヤノン
リコー
富士通
この名前を見ると、日本の産業史が見えてきます。松下電器は現在のパナソニックです。
シャープは現在、台湾の鴻海グループの傘下に入っています。キヤノンやリコー、富士通も、かつては典型的な「日本の電機メーカー」というイメージの会社でしたが、今ではカメラ、複合機、ITサービスなど、それぞれ違う分野へと軸足を移しています。
つまりFAXという機械は、1980年代の日本の電機産業が最も元気だった時代の象徴のような存在でもあります。その象徴が今ではアナログの象徴のように語られていることです。
かつては最先端だったものが、今では「古い技術」と呼ばれる。技術の持つ宿命といえばそうなのでしょう。
ただ、それだけではありません。FAXが日本でここまで広く普及した理由は、日本企業が機械を作ったからだけではないように思えます。もっともっと重要な文化的背景があることはまちがいありません。日本社会との相性の良さと言ってもいいです。
日本はもともと紙の文化が強い国です。契約書、申請書、帳票、伝票。会社とくにお役所の仕事の多くは長い間「紙」で動いてきました。
そして私たちの国語、日本語という言語はかなり特殊ですよね。世界一マスター困難な外国語としてつとに有名ですね。
アルファベットの国では、文字は線の組み合わせです。しかし日本語は漢字、ひらがな、カタカナ、時に英単語混じりの複雑な文字体系を持っています。
1980年代、まだパソコンが十分に普及していない時代。
日本語のデジタル入力は、かなりハードルが高いものでした。
しかしFAXならどうでしょう。紙に書けばいいそれをそのまま送ればいい。
文字コードもフォントも入力方式も何も考えなくていい。
紙に書いたものが、そのまま相手に届く。これは日本語の社会にとって、非常に都合のいい通信手段だったのではないかと思います。
つまりFAXは通信技術であると同時に紙文化の延長でもあったわけです。
英語などのインドヨーロッパ諸言語は音声文化、日本語は視覚文化といっても良いでしょう。これがファックスの普及に大きく寄与しているのはこれもまた間違いのないところだと思います。ここに言及しだすとかなり長くなるのでここら辺で。ただ、私たち日本人はかなり視覚多用の或いは依存民族ですね。
特にBtoBではFAXが残った。
FAXが特に長く残った世界、今でもそうですががあります。それが私たちの事業分野であるBtoBの受発注です。メーカー、卸、小売。この三者の関係は、日本では長い歴史があります。
そしてそれぞれの会社が違うシステム、違う商品コード、違う業務フローを持っています。つまり完全に統一された注文システムというものが存在しません。その中で最もシンプルな方法は何か。
紙の注文書を書く、それを送る。
これです。
FAXは相手のシステムを知らなくても送れるフォーマットが多少違っても届くという強みがあります。
つまりFAXは商取引の世界では通信機というより取引の共通言語、共通フォーマット、共通プロトコルのような役割を持っていたのかもしれません。
出版から始まった私たち。
ここで少し個人的な話になります。
実は私たちの会社は、もともと出版業から始まりました。出版とは意味を書く
それを紙に固定するという技術です。
流通業における商習慣としてのファクス利用とはまた違って私たちにとってのファクスは客先、商売先にある印刷機としてのそれでした。
さて、FAXはなくなるの。
FAXの歴史やそれを取り巻く世界を見てみるとそれは単なる古い機械というより紙文化、通信技術、産業史そういうものが重なってできた道具のようにも見えてきます。
なのでFAXをなくすことがDXなのか?
という問いには、簡単には答えが出ません。むしろ紙で届く世界はそのままにデータで動く世界その両方をどうつないでいくのか。
そこに、答えがあるように思えます。
FAXというのは少し不思議な通信世界です。声でもなく、文字コードでもなく紙そのものを送る。
誰かが書いたもの
誰かが押したハンコ
誰かが残した手書き
誰かの……。
そういうものまで含めてそのまま相手に届く。データ通信とは少し違う人の気配が残る通信です。だからなのかもしれませんFAXが完全になくならない理由は。
あなたもあんなドキッとするような胸ときめくようなファクス受け取ったことありません?
