久しぶりに部下とお客さんのところに行った。
名刺交換が始まり、先方が社長お久しぶりですねと仰った。
え?
確かに見覚えのある顔、差し出された名刺の名前もどこかで拝見したような…。
僕のこの躓きが部下を動揺させてしまった。社長のこの体たらく、部下は辛い。
部下の辛さは相手にも伝わる。相手もどう対応していいものか。気まずい空気があたりを覆った。商談が終わるまで、ついぞ僕は思い出すことがなく、エレベータで階下に降り、玄関を出たところで、部下に尋ねた。
どなただったの?
すると、その方は僕はわずか数ヶ月前に会ったばかりの方であった。しかも訪問する前に部下は一度僕にそのことを伝えさえしていたというのだった。彼の口からいくつかの固有名詞を聞いているうちに、まざまざと記憶がよみがえった。
慌てて、元来た道を引き返そうとした。
部下は、どこに行くんですかと。
いや、今、まざまざと思い出したので、先ほどの件をお詫びに行かねばならない。このままでは、僕は思い出してないままの人間として記憶されてしまう。
部下は半分呆れながらも、その表情に憐憫の陰を宿しながらただじっとエレベータを見つめていた。
記憶しないのか、できないのか。多分いずれでもないのだと思う。
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